大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)664号 判決 1967年9月28日

上告人

国際交通株式会社

右代理人

青木定行

ほか三名

被上告人

大平武二

右代理人

糸賀悌治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人青木定行、同山田璋、同中野慶治、同青木達典の上告理由第一点について。

譲渡人の捺印のみで記名を欠く裏書により記名株式の譲渡を受けた者が、記名を補充せず、会社に対して株主名簿の名義書換請求をしても、会社はこれに応ずる義務はない。しかし、原審の確定した事実によれば、上告会社は、被上告人らの名義書換の請求に応じてその株券を預りながら、訴外荒川三治(上告会社の代表取締役)と被上告人並びに訴外柳原安造らとの紛争について、荒川の立場を有利にするため名義書換せず、株券の返還もせず、被上告人らが記名の補充することを妨げているというのであり、その事実認定は、原判決挙示の証拠により首肯できる。右のような事実関係のもとにおいては、上告会社が右記名の欠缺を主張することは、自ら違法に阻止妨害している記名補充権の行使を求めることにより、被上告人または柳原らに不能を強い、誠実に書換をなすべき自己の義務に反するから、右記名の欠缺を主張して株主の名義書換の請求を拒否できない旨の原審の判断は正当である。また、所論主張の確定判決は、訴外柳原安造らが上告会社に対し本件株式の名義書換を請求した別訴の判決であつて、被上告人を右柳原らと同一視すべき事由は認められないから、右確定判決の既判力が被上告人に及ばない旨の原審の判断も、正当である。したがつて、原判決には所論違法は認められず、論旨は、採用できない。

同第二点について。

上告会社は正当な理由がないのに、株主名簿の名義書換に応じないことは、論旨第一点において説示したとおりであるから、新株主である訴外柳原らが株主名簿に記載されていないという事由を主張することは許されず、かかる新株主柳原らに招集通知を欠く株主総会の招集手続は違法である旨の原審の判断は、正当である。原判決には所論違法はなく、所論は採用できない。

同第三、四点について。

本件株式の名義書換停止期間の前である昭和三三年二月二八日、被上告人は上告会社に対して本件株式の名義書換の請求をした旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠に照らして首肯でき、原判決には所論違法はない。所論は、ひつきよう、原判決の認定しない事実に基づき原判決を非難するか、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を争うに帰し、いずれも採用できない。

同第五点について。

株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのであるから、被上告人が株主たる柳原らに対する招集手続の瑕疵を理由として本件決議取消の訴を提起したのは正当であり、何等所論の違法はない。しかして、原審認定の事実関係の下においては、訴外柳原らが総会招集の通知を受けず議決権を行使し得なかつたことが、本件総会の決議に影響を及ぼさないとのことを認めるべき証拠はないとした原審の判断も正当である。もつとも裁判所は諸般の事情を斟酌して株主総会の決議取消を不適当とするときは取消の訴を棄却することを要するが、原審認定の事実関低の下においてはかかる事情も認められない。結局論旨は、いずれの点よりして理由がなく、採用し得ない。

同第六点について。

原判決は、所論株式について被上告人が権利者であると認定しているのであるから、所論正当性の主張に対して判断していないのは当然であり、原判決には所論違法はなく、所論は採用の限りではない。

同第七点について。

訴外柳原らが、上告人主張のような意図および経緯で本件株式を取得したことを認めるに足る証拠はなく、また株主の資格に所論のような制限を認める根拠もない旨の原審の判断は、原判決挙示の証拠関係、その確定する事実関係に照らして首肯でき、原判決には所論違法はない。したがつて、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例